この仕事は「出会い」があったからこそ。
一期一会を大切にできるドッグトレーナーであってほしい。
小原映画を観ていると本当に犬が演技をしているようですが、いったいどうやって訓練しているのですか?
宮よく犬が「何?」とでも言っているように、首をかしげるシーンがありますよね。あれは訓練では教えられないんです。例えば、テープレコーダーを早回ししたときの「キュルキュル」という音を聞かせると犬は「何の音?」と首をかしげる。こんなときはこういう反応をする、とこれまでの経験で知っていることを撮影のときに使うんです。
大澤監督に突然「こんな動きを撮りたい」と言われたときはどうするのでしょう?

宮犬の習性を考え、その動きができそうな方法はとにかく試します。そのためには私が穴を掘って地面に潜ったり、木の上に登ったりして指示を出すこともありますよ。
大澤その場で試行錯誤しながら動かすのですね。
宮犬を動かす方法なんて教科書には載っていません。自分の経験から導き出すのです。どんな動きを求められても、私は犬のプロだから「よし、何とかしてやろう」と手を尽くすんです。ひとつの映画やドラマは、そういう「プロ」が集まってできあがるものですからね。
小原ふだんはどんな訓練をしているのでしょうか?
宮私はもともと警察犬訓練士でしたから、俳優犬にも警察犬と同じ基本訓練を教えています。「演技」をさせたいときは、犬の習性をもとにどうしたらその動きができるか考えますが、俳優犬も基本の動作はいつでもできるのが前提。それは徹底的に教えています。撮影では「ゆっくり歩く」場面も多いので、私の指示に合わせて歩くスピードを調整する、という訓練にも最近は力を入れています。
小原俳優犬の演技は、基本の訓練が土台になっているのですね。
宮それから撮影現場では、どこでも物怖じしない「神経の太さ」が求められます。だから、車通りの多い道や人ごみの商店街を歩いたり、駅の近くで電車の走る音を聞かせたり、いろいろなことに慣れさせておきます。俳優犬に向いている「神経の太い犬」というのも見抜けるようにならなければなりません。

大澤それはどこでわかるのですか?
宮私は最初に目を見ます。性格や表情は目に出ますからね。犬だけじゃなく、それは人間も同じです。
大澤僕は初めて会った犬とはまず触れ合って、反応を見てその後の訓練方法を考えているのですが…。
宮見た瞬間にどんな性格の犬なのか読み取れるようになるといいね。目のほかに、耳や尻尾にも表情があるから、同時に見て判断します。犬種によっても性格が違うので、犬の勉強も大切ですよ。
小原警察犬から俳優犬の訓練士の道にはどうやって入られたのですか?
宮これは人とのめぐり合わせだと思っています。それまではまさかこの世界に入るなんて夢にも思いませんでした。『南極物語』は当初、犬の専門家としてアドバイザーのような立場でした。それがいつのまにか演技指導を担当することになり、映画が大ヒットしたおかげで、その後もどんどん仕事が舞い込むようになりました。私はチャンスに恵まれていたんです。
大澤大切なのは訓練の技術だけじゃないんですね。
宮そう。だから君たちも今の仲間やこれからの出会いを大事にしなければなりません。学生時代はたくさん友達を作ることのできる最高の時間です。人生の中でいい仲間をひとりでも多く作ってください。
小原これからドッグトレーナーを目指す私たちは、どんな勉強をしたらよいのでしょうか?
宮日本だけにとどまらず、ぜひ海外に飛び出してください。日本にも外国の犬種がたくさん入ってくる時代ですし、世界で犬の勉強をしてみてほしいですね。国によって動物に対する考え方は本当に違います。私ももう少し若かったら、外国に行って修業したいくらいです。いろいろな経験をしてみたら、きっと視野が開けると思いますよ。
方法は2つあります。
警察官の採用試験に合格し、警察の鑑識課などの警察犬を扱う部署に配属される方法があります。すなわち、警察官(公務員)ということになります。
民間の警察犬訓練所に入所し、経験を積み、公認訓練士の資格を取ります。